典落語の「芝浜」に、素人ながら感じ入ったことがある。数年前に見た立川談春さんの熱演だ。腕はいいが、大酒飲みで怠け者の魚屋の勝(かつ)。女房に言われ渋々商いに出て、夜明けの浜辺でたばこをふかすシーンが鮮烈だった▼勝はそこで大金の入った財布を拾う。もう働かなくて済む。まずそう思うところが真人間ではない。ところが、どんちゃん騒ぎの翌朝、女房は宿酔の亭主を突き放す。大金てなんだい、夢じゃないのかい、と▼話を真に受けた勝は一転酒を断ち、商売に励む。3年後の大みそか、女房はあの財布を取り出す。亭主に黙ってお上に届け、落とし主不明で下げ渡されていた。泣いてうそをわびる女房に、夢中で働いてきた亭主は……。この人情噺(ばなし)を、昨日の勤労感謝の日に思うのも故なしとしない▼自堕落の報いから3年で脱した勝だが、対照的に質実な発想がドイツにあるらしい。残業時間などをあたかも銀行預金のように口座に積み立てておき、後日、休暇などに充てる。「労働時間貯蓄制度」だ▼政策シンクタンクのPHP総研が先に出した提言「新しい勤勉宣言」に盛り込んだ。人生の中で、いつ、どれだけ働くかを自分で決める。出産育児や介護、自分の充電と、活用法は様々だ。働き方の自由度を高める方向ではあるが、コスト削減の具に使われる懸念もある▼企業が従業員を大切にすれば働く意欲は増す。落語の芝浜も、女房の深い思いを知った勝がますます商いに励むだろうと予感させて幕となる。
天生人语
最新推荐文章于 2025-04-20 14:59:27 发布