ドイツの戦後の歩みを一身に具現するような政治家だった。「過去に目を閉ざす者は現在にも盲目となる」という戦後40年の演説は、あまりに有名だ。統一を挟んで10年にわたって大統領を務めたワイツゼッカー氏が亡くなった▼「荒れ野の40年」と邦訳された1985年の演説は、ドイツが降伏した5月8日に国会で行われた。ナチスの過去を変えたり、起こらなかったことにするわけにはいかない、われわれ全員が過去を引き受けなければならない――と訴えた▼大戦ではポーランド侵攻に従軍した。この時、兄を失う。戦後、ヒトラー政権の外務次官だった父が捕らえられ、弁護人の助手になった。その仕事を通じナチスの犯罪を知ったことが、後の人生に大きく影響したという▼数々の演説を残した。90年、ドイツ統一の式典では「統合された欧州の中で平和に貢献したい」と宣言。2年後、極右による外国人排斥の襲撃が頻発し、ナチス政権誕生前夜のようだともいわれた時は、暴力反対のデモを呼びかけた。ベルリンの街を30万人が埋めた▼演説集などを翻訳した永井清彦さんは、元大統領を「言葉の人」と表現する。多くの人の話を聞き、じっくり演説の想を練る。草稿も人任せにせず自分で書くのを常とした▼戦後40年の演説の最終盤で、若い世代へ呼びかけている。「他の人々に対する敵意や憎悪に駆り立てられることのないようにしていただきたい」。宗教的な過激派の悪逆が続く今まさに、その言葉が光彩を放つ。
天声人語
最新推荐文章于 2025-09-01 13:40:28 发布
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